横浜・明日への提言 (43) ブータンのGNHに学ぼう
代表取締役社長 藤木幸夫
(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)
前々回、私はグローバル主義、市場原理などは一切お断りと述べたが、外国の考え方などをなんでも排斥するわけではない。取り入れるよい点があれば進んで取り入れてきた。そのよい例がブータンのGNHだ。
GNHのGNは私のいう義理、人情ではなく、国民全体(国民総生産GNPのGN)、Hはハピネス。だから国民みんなが幸せになろうということ。ただし、ハピネスを意味する「H」には実に深い味わいがある。ひとことでいえば、何はともあれ今の幸せを噛み締めようというようなことだ。しかも、国民みんながそういう考え方をしている。ブータン国民のこうした平均的な考え方を知って、私はほかの国よりいろんな物を持ち世界を相手に伍していけるめぐまれた日本で、しかも、横浜で暮らせる幸せ、振り返ってみて自分がどれだけ幸せかを痛切に思い知らされた。それからは、どんなに間違ったこと、ひどいことをいわれても怒らないで、「この人は気の毒だな」と思えるようになった。世の中の間違いに気づいても批判はやめて提言をすることにした。すべてにおいて気持ちが明るくなり、前向きに受けとめられるようになった。
しかし、今、日本人にいちばん欠けているのがこの「H」だ。物があふれていつでも手に入るのにありがたいと思えない。あれが欲しいと思うが、つかんでしまうとありがたいとも思わないで、すぐに次の物が欲しくなる。欲ばかりかいて満ち足りない。次から次へ飢えたように欲を追い求めて自分という存在まで念頭から消えてしまう。これは実に不幸なことだ。
しからば、どうしたらよいのか。
私はハピネスの「H」を子どものうちから教える必要があると感じて、横浜スタジアムで野球の試合をするために集まった小学校一年生から四年生の少年選手たちと付き添いの親も含めて一万人にいった。
「みなさん、おはよう」
「おはよう」
「みんな幸せだよ。ちゃんと朝ごはん食べて、こんなにきれいなユニフォーム着て、横浜スタジアムへ来て、みんなで野球ができる。幸せだよ。忘れちゃ駄目だよ。大きい声でありがとうといおう」
「ありがとう」
それで終わり。幸せかと聞くのではなく、子どものうちから幸せだといわせないと駄目なのだ。
今の日本はいろんな問題を抱えている。いろんなかたちで不都合に泣く人がいる。泣き寝入りしろというのではなく、今、この国で暮らせるめぐまれた面に目を向ける。どこの国よりも平和だ。それだけでも大きな恩恵だと思えれば、当面する困難に立ち向かい不都合を自分の手で解決しようという気力が湧く。
横浜の明日がここから始まる。