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2010年4月15日 (木)

横浜・明日への提言(95) 世論のアンテナ精度を高めよう 

95

横浜エフエム放送株式会社
代表取締役社長 藤木幸夫

(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長、株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)

 新聞の切り抜きを終戦直後からずっとつづけてきた学者が、膨大な記事から一つのパターンを発見した。そして、「ある時代にある物事を新聞がクロといったら何年かするとシロという時代がくる」といった。
 またしても、その通りになりそうな雲行きになった。
 原子力発電所がごく最近まで極めつけの迷惑施設として受けとめられ逆風にさらされつづけてきたことを認めない人はいないだろう。新聞の論調も原子力発電について否定的見解を述べてきた。
 ところが、地球温暖化が人類史的視野の大問題となり、二酸化炭素の排出量削減が世界的なテーマに格上げされるに及んで、原子力発電に関するかぎりここしばらく新聞の論調は無風状態に転じていた。
 そこへ民主党政権の「温室効果ガス25パーセント削減」という最高難度の目標値が設定され、このたびの「地球温暖化対策基本法案」や「エネルギー計画原案」などに原発拡大方針が見え隠れし始めた。きたぞ、きた、きた、という感じだ。原子力発電は半世紀近く稼動してきて施設の老朽化による更新時期が重なり、追い風として政府の輸出支援方針もあり、原発推進ムードが一気に高まりそうな気配である。
 しかし、ちょっと待てよ。
 過去にスリーマイル島原発事故、チェルノブイリ原発事故、東海村放射能漏れ事故があったから安全コストに資金の投入を惜しまなかった。安全コストは高くつくという認識が広く受け容れられていた。そういう意味では新聞の論調がプラスに作用したわけである。これから、もしも、新聞の論調が原発推進に乗り変わってしまうとすると、喉元過ぎれば熱さを忘れるの類でコスト削減が優先され事故の危険が高まることになりはしまいか。
 かつてはごく身近な安全が判断の尺度だったが、今は地球規模の安全が尺度になっており、下手をすると二律背反になりかねない。いわば今が瀬戸際なのである。ここで求められるのが「常に反対概念を手当てする」という別のパターン尺度である。パターン尺度は経験値に基づく「経験則」とでもいおうか。物事がプラス要素とマイナス要素で成り立つとすると、プラス要素を前面に押し出して事を過ちなく進めるには裏面に潜むマイナス要素が出ないように手当てすればよいという考えである。
 以上のように複数のパターン尺度で物事を見るようにすると個々人のアンテナの精度が上がって、これからどうすべきかがよくわかる。世の中が理に適ったことをやっているか、間違ったことをやっているか、的確に判断できるようになる。
 世論とはそういうものでありたい。