横浜・明日への提言(101)世の中を愛するためには知ることが第一
代表取締役社長 藤木幸夫
(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長、株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)
若い頃に夢を抱いた人間は成功や失敗に関係なくいつまでも夢を持つことができる。私は今年で80歳になるから、わが身を例にとってそう断言してもよいと思う。
私たち戦前世代は大なり小なり貧乏や物のない時代を経験している。物がないから逆に夢を求めたのかもしれない。逆に物がゆたかになり、飽食の時代といわれる今日は「夢が持てない」という。それがどうのこうのいう前に、ゆたかになったから万々歳ではなくて、そのことによって失われるものがある、だから気をつけようという現状認識を持つ必要がある。そして、「しからばどうすればよいか」という発想が先にこないといけない。原因や責任の所在を追及することにエネルギーを使い果たしてしまうと、今の日本のようなリンチ社会になってしまう。
しからば、どうすればよいか。
解決の鍵はやはり「知ることは愛すること」にある。
端的な例をあげよう。昭和39年に海外旅行が自由化され、その後3,000ドルに制限されてきた外貨持出し枠が撤廃されて原則無制限になったとき、国民的規模の外国旅行ブームが起きた。外国旅行に出かけた若い人が異文化に触れて何を知ったかというと「日本は何ていい国だったんだ」ということだった。日本人は落し物は必ず届けられるものという感覚だが、外国では荷物を置いてその場からちょっとでも離れようものならすぐに持ち去られてしまう。治安のよさは格段の違いである。海外旅行解禁を境に自民党の票が急に増え始めた。
どうすればよいかは、最早、自明である。子どもを育てるにはまず誉めろという。当たり前と勘違いしている日本のよいところを再確認する。デパートで落し物が届くのは日本ぐらいなものだそうだ。旅館に行くと入り口に女将・番頭・仲居さんがずらりと並んで出迎えるのも日本でしか体験できないものだという。日本の美風・利点などを異文化を物差しにして総点検したうえで、改めるべきは改め、よいところはしっかり再認識する。
改めなければならないことの第一は自虐的報道だろう。第二が知名度優先の行列症候群的な報道である。ゴルフといえば成績に関係なく石川遼をトップにする、卓球は福原愛といった感じ、ニュース価値を勝敗よりタレント性に置くようになってしまったら、最早、スポーツニュースではなく芸能情報である。そのへんの規律を立て直す。しかも虫の眼の判断ではなくトータルに判断して正しい報道をする。これが世の中の手当ての第一歩だ。世の中のよい面の発掘にウエイトを戻していけば若者にも必ず夢が戻る。夢がもてれば元気が出て意欲が湧く。次にやるべきことは産業界、経済界、文化・芸術の分野を問わず、「能力があり意欲を伴った若い人の受け皿をつくる」ということに尽きる。