ヨコハマ ストーリー 第37回 「私の有隣堂物語」
魅力あふれる街、ヨコハマ。
この街が、世界の表舞台に登場したのは、今からおよそ150年前。ペリー艦隊が来航したときから、その歩みは始まりました。そして今もヨコハマは、ユニークな街であり続けています。そんなヨコハマの由緒あるスポットを舞台に、物語と音楽で紡いでいく『ヨコハマ・ストーリー』。今日は「私の有隣堂物語」
関内駅の近く、イセザキモールに位置する有隣堂本店書店館。創業は、1809年12月13日。横浜を愛し、横浜に愛されてきた歴史ある有隣堂は、文化の発信地として、その役割を守ってきた。有隣堂の名の由来は、中国の論語からきている。「徳は、孤ならず、必ず、隣りあり」。徳を積んでいるひとは、孤独にはならず、必ず、隣に誰かいる、という言葉に由来している。
神奈川の歴史や郷土コーナーも充実しており、ガイドブックやエッセイ、写真集も地元に根ざした品揃えになっている。もちろん、その他の書籍の種類も豊富で、多くの人が本を求めて来店する。
お客様とのコミュニケーションを大切にしたいという思いから始まった、十色のブックカバー。『何色になさいますか?』というひとことが、優しく響く。ブックカバーは、色紙のようなシンプルなデザイン。上質な手ざわりで『本は心の旅路』という文字と、カタツムリのマークが銀色で、さりげなく入っている。 (文庫のブックカバーは2006年から冬季限定で1色増えています)
来年のカレンダーを買うために、有隣堂にいった。休日のイセザキモールは、にぎわっていた。吹き抜けの一階が特に好きだ。高い天井に文化の香りが昇っていく。人々は、思い思いに本を見ていた。選ぶ本はさまざまだったけれど、その横顔はどの人も同じように凛として見えた。
カレンダーはすぐに見つかった。熊田千佳慕という94歳の画家が描いた花のカレンダー。草花や虫を愛し、自然とともに生きる横浜出身の画家の絵。彼の生き生きとした輝く描写力と、愛にあふれた優しさが心を満たしてくれる。
熊田千佳慕は、1911年横浜市中区に生まれた。東京美術学校、現在の東京藝術大学を卒業し、グラフィックデザインの道に進んだ。横浜大空襲で被災後は、6Bの鉛筆と縁の下で拾った絵の具を使って細密画法を会得した。初めての絵本は『みつばちの国のアリス』。以来、子供の絵本や雑誌で、花や虫の生態画を手がけてきた。
彼を好きになったのは『みつばちマーヤ』という絵本のあとがきを読んでからだ。こう書いてあった。「大きな自然の中で、小さな虫たちは小さな命を大切に守って生きているのです。人間も虫も同じ生きものです。なかまです。失われていく自然への感性を大切にしましょう。私も心の灯りを大切に、神の許しのある日まで、愛を大切に生きてまいります。またお会いできる日を楽しみに。心をこめて。千佳慕」
花の絵は、優しかった。丁寧で、温かかった。街に出ると、師走の風が頬にあたった。つめたかったけれど、その寒さが嬉しかった。
今日の「私の有隣堂物語」はいかがでしたか?出演、小林 節子 脚本、北阪昌人でお送りいたしました。「ヨコハマ・ストーリー」また来週をお楽しみに・・・