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2006年5月12日 (金)

横浜・明日への提言(4) 便利社会の落とし穴 その①

04

横浜エフエム放送株式会社 
代表取締役社長 藤木幸夫

(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)

 ラジオのAMとFM放送、テレビ局併せて200余りのステーションがあるが、キャッシング関係のコマーシャルをやらないのはFMヨコハマだけだ。しかも、社長の私だけが反対している。副社長や専務が私に泣きつく。
 「社長、そろそろお願いします。いろいろ経済的な事情があって、他局もやっているし、うちもやらせて下さい」
 「気持ちは分かるが、頼むから私の生きている間はやめて欲しい」
 昔も今も私の返事は終始一貫して変らない。
 FMヨコハマのリスナーは13歳、14歳のローティーンから始まってハイティーンまでが主流で、あのソフトを買いたい、あれが欲しい――みんなお金が欲しいときだ。私にとってはいわば孫も同然だ。FMヨコハマで「キャッシングはどこで、いくらだよ。電話一本で借りられる」とやったら、かわいいリスナーたちが30万円借りた、50万円借りたということになって、それこそお父さん、お母さんまでもが大変な目に遭わされる。そんなのはほんとに嫌だ。一人でもそういう犠牲者を出すのは嫌だ。
 ありがたいことに広告代理店が心配してくれて、「子どもがよくわからないようなコメントにするから」といっていろいろ工夫しA案、B案、C案、D案を持ってきた。
 「いくら藤木が頑固でも、これならいけるだろう」
 ほんとに嬉しかった。だが、断った。所詮、キャッシングだ。稼ぎのない若者が借金をしたら返せないのはわかっている。だから、今でも断っている。
もし、受け入れるなら、その前にやることがある。それは月給を下げることだ。給料を下げても会社を維持する。また下げて維持する。下げすぎて子どもの月謝も払えない。そこまでいったら、初めてキャッシングOK・・・・。
 しかし、そこまではいかない。社員は結構いい生活をしている。だから、そういう意味でやるまでには至っていないと判断して私はゴーサインを出さない。
 瑣末なことかも知れないが、親の世代、祖父母の世代として当然の配慮だと思う。新しく何かを考えたりしようとする前に、「ここまでは譲れるが、ここから先は駄目だ」という基準を明らかにし、愛情で物事に血を通わせるのが順序だ。そういう企業が横浜に増えれば日本も変る。
 私はこれからも会社を愛するようにリスナーを大事にしたいと思う。愛すると口先では簡単にいえるが、確固とした信念に裏打ちされたものでないと、「それぐらいは、まあいいか」になってしまう。近頃の企業の稚拙な事故や事件の原因の一つがそこにある。そういう意味で私は死ぬまでわからず屋の「頑固オヤジ」でいようと思う。