00_weblog_default_js

  • // JavaScript Document

fyb_switch_to_sp_js

« 2009年7月 | メイン | 2009年10月 »

2009年9月

2009年9月30日 (水)

横浜・明日への提言(82)「ちょっと待てよ」と立ち止まれ

82

横浜エフエム放送株式会社
代表取締役社長 藤木幸夫

(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長、株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)

 あらためて振り返ってみると、私たちは「どうなんだ、どうなんだ」と毎日違うページをめくるようにテレビの前に釘づけにされるような生活になってしまった観がある。森内閣不支持率80パーセント台、小泉内閣支持率80パーセント台のあたりから、極端から極端へ走る傾向が始まり、それにワンフレーズポリティクスが加味された相乗効果で、白か黒か、マルかバツか、二者択一社会になってしまった。それもじっくり考えたうえでの二者択一ではなく、「どうなんだ、どうなんだ」「さあ、どうする、どうする」とせかされるような感じで選択を迫られるのである。そして、今回の「民主党か、自民党か」だ。私はこのようになってしまった世の中のしくみや人間の知能を「即断定・即反応の二者択一構造」と呼ぶことにした。
 私は携帯電話が出まわったとき、月刊誌『PHP』に「携帯が国を滅ぼす」という警告の論文を書いた。多機能化した今日の携帯電話は想定外であったから亡国の度合いは当時とは比較にならないほど高まっているわけである。携帯電話で見るニュースは断片的で展開が実に速い。何でも自分の頭で考えて咀嚼してからでないと理解したと思えないシーラカンス級のアナログ世代の私などはあまりにもめまぐるしすぎてついていけないのだが、ゲーム世代にとっては場面がめまぐるしく変わるほうがテンポが合うのだという。ある日あるとき、彼らが夢中になるゲームの場面をのぞいて驚いた。画面の下に字幕が出るのだが、私が三分の一も読み進まないうちに、彼らは画面を先送りしてしまう。「それで、わかるのか」と聞くと「わかる」という。
 それでなくとも、今は隣の人間とも携帯メールで会話のやり取りをする時代である。それぐらいは知っているから、そのこと自体は驚くものではないが、隣の人間とメールのやり取りする感覚でアメリカの相手とも会話のやり取りができて、しかも、料金がまったく同じだと聞いたとき、真偽のほどは別としてとにかく度肝をぬかれた。
 むかしはアメリカへ電話をするなどというと、国際電電に申し込んで相手がでるまで40分近く待たされた。いつつながるかわからないから、つながるまでの間、電話番をしていなければならなかった。これを大変革と呼ばないで何といおうか。
 まさしく高度情報化社会であるが、機械に人間がもてあそばれている気がしないでもない。しからばどうすればよいかといえば、こういうときは反対概念を行えばいい。即断定・即反応が人間の思考力を退化させているのだから、「ちょっと待てよ」と立ち止って自分の頭で考え、自分で答えを出す練習をすることだ。人間が人間らしく振舞えるようにするには、人間らしい行動を反復して本来の姿を再現するしかないのではないか。

2009年9月14日 (月)

横浜・明日への提言(81)バーチャルとリアル

81

横浜エフエム放送株式会社
代表取締役社長 藤木幸夫

(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長、株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)

 政権交代を実現させた総選挙の報道の過熱ぶりを私は冷めた目で眺めてきた。すべて前からわかっていたことじゃないかと。しかし、加熱するほどマスコミが選挙報道に夢中になるのにはわけがある。兎に角、予測調査はよく当たるらしい。外れるのは予測投票率くらいなもので、それも規則性のある誤差だから想定内である。偏差値など統計理論を少しでも理解していれば、調査をして現状を僅かな誤差で言い当てるのはさほどむずかしいことでないくらいのことはわかるから、選挙の予測調査をやること自体を問題にするつもりはない。私が問題視してやまないのはマスコミが予測調査のバーチャルな結果をリアルに演出したり記事として使うことの是非である。
 民主308、自民119という数字は、どこのテレビ局も、どの新聞社も、かなり早い段階に実施した調査で掴んでいたはずである。あたらずといえども遠からずで、麻生政権発足直後から議席数の予測はほとんど変化がなかった。結果は自明の理なのだからマスコミは冷静に論評するのが本当だろう。それなのに、キャスターも、コメンテーターも、バーチャルなデータのみに言及して、センセーショナルな取り上げ方を繰り返した。つまり、テレビ画面の裏側はバーチャルでしらじらしい演出世界でしかないのに、画面のこちら側の視聴者はリアルに受けとめてしまう。マスコミはそうした現象も織り込み済みのこととしているというのだから、これほど不条理なことはない。
 麻生政権発足後間もなく、自民党の大物議員が党独自の調査結果を提示して総選挙を先送りするいいわけにした。自民党にもわかっていたのだから、テレビのワイドショーなどに振りまわされることもないと思うのだが、そうはいかないところにテレビが持つ魔力みたいなものがあるのだろうか。
 地すべり的圧勝で政権交代を勝ち取った民主党も同じである。結果を欲しがるあまり油断を戒めるだけで、次のプログラムを確定して少しでも先へ進むことを怠った。
 こんなことを繰り返していたら、日本はどうなるのだろう。バーチャルな世界を演出しトリックスター化するマスコミ、バーチャルな世界をリアルと信じて憎しみや怒りを増幅して、結局、マスコミの誘導に乗せられて二者択一に走ってしまう視聴者、その悪しき循環が螺旋的に行き着く先は何か。賢明で健全なリーダー不在下のポピュリズム、中身が真空の高度情報化社会、即断定、即反応の二者択一知能など、どのようにも予測がつくわけであるが、私は政権交代などよりこうしたシチュエーションのほうをむしろ衝撃的に受けとめている。
 しからば、どうすればよいのか。論じるとすれば、自民党の再生などより情報を国民に提供する世の中の仕組みの検証と再構築ではないか。次回もこの問題を取り上げてみたい。

2009年9月 2日 (水)

横浜・明日への提言(80)マスコミはもっと巨視に徹すべし

80

横浜エフエム放送株式会社
代表取締役社長 藤木幸夫

(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長、株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)

 今回の総選挙は大方のマスコミが予想した通りの結果になった。いずれにしても、想定の範囲内であった。そんなことより、新聞やテレビが「自民か、民主か」の二者択一で突っ走った直前の事実が記憶に新しい。
 テレビが茶の間に入り込み、一軒に一台から一人に一台まで普及しつくし子供部屋まで占領するに立ち至った。いきなり、なぜ、こんなことをいい出すのかというと、テレビを用いた詳細面接調査を数多くこなした専門家が「テレビにはステイタス付与機能がある」といっているからである。たとえば、テレビCMの効力は商品を売り込む以前にメーカーに対する信頼感を消費者に植えつけるのだそうだ。だから、結果として商品が売れるのだという。
 視聴者はテレビCMをつくるのに莫大な費用がかかり、テレビで放映するにはさらに巨額の予算が必要だとすでに知っていて、それゆえに「テレビでCMをやるようなメーカーの商品なら安心して買える」という思考の流れになっていく。
 あるいはテレビの画面に定期的に露出、その後、政界に転じたタレントの支持率の高さの秘密も、実はテレビ媒体が持つ魔力のなせるわざであるという。テレビ時代の申し子ともいうべき彼らは、そうした効果をしっかり見極めたうえで、政界に転じてからもテレビ出演を積極的に心がけている。だれと名を挙げていわなくてもわかるはずである。
 そういう価値創造作用ないしはステイタス付与機能を持つに至ったテレビが一軒に一台どころか一人に一台というかたちで国民の生活を支配するシチュエーション、これこそ総選挙の結果と並ぶ程の大きな問題ではないか。
 私たちはテレビなど想像もできない時代に生まれ、テレビが登場した時代にはさいわい自分で考え学ぶ力を持つ頭になっていた。ところが、知らない間に時代が進んで、生まれたときからテレビがあったマルバツ世代が社会人となり、世の中の中堅どころを占めるようになった。さて、彼らは自分の頭で考え学ぶ力を持つのだろうか。
 私たちがいちばん知りたいのがその答えである。マスコミは選挙予測、内閣支持率調査といったことにばかり夢中になっていないで、自分たちの影響力を反省的に認識し、「製造者責任」の観点から、視聴者に与えている影響の実態こそ調査をすべきだ。そのためにも、巨視的な視点からテレビと視聴者の関わりという歴史上かつてない大変革に着目し、解明する義務がある。