横浜・明日への提言(62)銭ゲバもどきの方針に決別しよう
代表取締役社長 藤木幸夫
(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)
大手出版社の看板になっていたような伝統があり名も知られた雑誌の休刊が相次いでいる。原因は何だろうか。雑誌だけの原因ではなく、広くマスコミを含めた編集方針の変化に原因がありそうだ。
あらためて昨年の亀田問題を思う。亀田弟のアンフェアなボクシングが世間の顰蹙を買い、あたかも彼がヒーローであるかのような取り上げ方をしたTBSに批判の矢玉が浴びせられた。しかし、TBSのみに限らず、いずこのテレビ局も「視聴率が稼げればよい、銭になりさえすればよい」という編成方針が見え見えである。亀田問題という象徴的な現象でたまたまTBSだけが馬脚を現したにすぎない。
亀田弟が強くもないのに朝から晩まで密着取材して面白おかしくヒーローに仕立ててつくられた偶像を電波に乗せて世間に垂れ流した。当日の試合は夜の8時からだったのに放送を7時から始めて「もうじき始まります」と視聴者を騙してテレビの前に1時間も余分に釘付けにしてしまった。いかにもあざとい商魂が透けて見えたからこそ新聞各紙が一斉に社説で非難の矢玉をあびせたのである。
そうした新聞マスコミも政治家や官僚、企業のアラ探ししか念頭にないのかと錯覚しそうなくらい取材対象のマイナス面にだけ目が向いているのが現実だ。それを極端にしたのが週刊誌のバッシング報道である。火のないところに煙は立たないのは確かだろうが、だとしたても裏づけを取るどころか、扇情的に憶測を加え、事実を針小棒大にふくらませて読者の正義感を殊更に煽り立てるのはフェアではない。
視聴率が稼げればそれでいいのか。
販売部数が伸びればそれでいいのか。
出版の世界のことはよくわからないが雑誌の休刊の根も同じだろうと思う。ランキング症候群といって書店で売れている書籍のみ買われる現象は読者がみずから読みたい本を選ぶことを放棄したことを意味する。
そして読者・視聴者の能力の低下が「売らんかな」の編集・編成方針にますます偏向を促し、悪循環のスパイラルにおちこんでいく。
どうしたら元に戻るか、戻すことができるか。
定期刊行物の週刊誌や月刊誌は季節とともにやってくる。いつも同じではない。今日は悪くても明日はよくなるかもしれない。そういう明るい明日を感じさせるような編集方針に戻すだけでよい。ただし、あざとい「売らんかな」の方針のままでいたら無理だ。売らんかなの編集方針を決然と捨て去り、今は売れなくても、よい記事をぶつけていくようにしなければ、到底、読んで震えがくる感動をもたらすような作品や記事は生まれてこないだろう。