横浜・明日への提言(45) 安全は金儲け、安全対策に金をかけよう
代表取締役社長 藤木幸夫
(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)
身近で起こった労働災害を考えるとき、遺族の嘆き悲しみを思うと「安全」のありがたさをつくづく思い知らされる。すべてが金額に置き換えて考えられる世の中だから、それに合わせて、私は好きな言葉ではないが「安全は金儲けだ」といいつづけてきた。
グローバリゼーションだ、国際競争だといい、日本の経営者はコストの削減ばかり考えるが、「安全だけはコスト削減などあり得ない」という強烈なメッセージを放ったのが、マンション建設業界の強度偽装問題だった。建築構造の強度計算を偽ってコストの削減、工期の短縮を図ったつもりが露見してしまったために倒産につながってしまった建設会社もある。建て直し、改修に費やす金額は削減したはずのコストなど比較にもならない巨額なものになった。強度偽装マンションの購入者、入居者は我が家に住み続けるためローンを追加し多額の借金を背負う理不尽な被害を受けた。
だれとはいわないが、頭のネジがどこか狂っているのは確かだ。
どこが狂っているのかというと、安全意識というピンが頭から脱落しているのだ。日本は平和だから安全が空気みたいに受けとられて、大きな事故が起きないと気がつかない。ここに潜在的な原因がある。
港湾業界には建設業界ともども一般派遣労働者が認められないということは危険度が高いと認識されているわけである。しかし、全国の港湾産業で労働災害による死亡者は毎年およそ10人ほどである。建設業界は500人平均。業界の規模の違いがあるから単純に比較できないが、極めて少ないといえる。だが、港湾業界はこれに満足していない。
あくまでも目標はゼロ。一件でも発生をみたら評価はゼロ。だから、安全に金をかける。労働力への依存度が高い業界だから怪我人が出れば痛い欠員になるし、ひとたび発生したからにはそれを惜しむものではないが、休業補償、見舞金など、大きな出費を伴う。まして、死亡事故となったら大事である。それぐらいなら安全に金をかけよう。常日頃からそのように申し合わせてきた結果である。それでもゼロにならない。
仮にゼロになったとしたら、どうだろうか。平和と安全が料金タダの空気みたいに感じ取っている世間一般の感覚からして、うっかりすると安全対策に投じた金が無駄になっているように錯覚するのではないかと思う。兎に角、何かが起きないと必要経費という認識に至らない。自分でいって好きな言葉ではないというのもおかしいかもしれないが、「安全は金儲け」の意味と意義はそういうことである。
開港150年記念イベントの計画が具体化しつつあるが、目に見えない「安全は金儲け、安全対策に金をかけよう」というメンタルな企業姿勢をしっかり構築し、ヨコハマから安全理念を全国に提唱し徹底させるのも一つの試みではないか。