横浜・明日への提言(33) 護送船団方式はGNO資本主義
代表取締役社長 藤木幸夫
(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)
前回掲載の私がいう護送船団方式について少し補足しておきたい。
護送船団方式は守らなければいけないが頑なに守れということではない。改めるべきは改め、守るべきは何か、時代の流れに沿って変えていく柔軟さがなかったら、世界に冠たる護送船団方式も動脈硬化を起こしてしまう。そのことを強烈に思い知らされたのが、前に述べたスクラットン社長と議論したときだった。
コンテナ時代の前は船内荷役といってワンギャング15から20人単位のチームで貨物の積み下ろしを行っていた。15人の中には五十五歳のベテランもいれば二十歳の新米もいる。当然、五十五歳のベテランと二十歳の新米では手当てが違う。ベテランは新米の6割増しが常識だった。ところが、ロンドン港の賃金体系には差がない。私がスクラットン社長に日本の賃金体系を説明したうえで、「これは、どういうわけか」と質問すると彼は次のように答えた。
「おまえさんは不思議なことをいう。藤木のいうことはおかしい。ワンギャングの中に二十歳がいて五十五がいる。チームとして仕事をするのだから五十五だろうが、二十歳だろうが、同じじゃないか」
「冗談じゃない。二十歳は社会に飛び出したばかりだ。五十五歳にはかみさんもいれば子どももいる。差があって当然なんだ」
私がここぞと切り返すとスクラットン社長はすかさずいった。
「一つのチームは二十歳だけでも五十五歳だけでも成り立たない。五十五歳の智恵と経験と二十歳のパワーがかみ合ってはじめて仕事になる。だから、賃金が同じなんだ。どこがおかしい」
なるほど、これぞ日本の中産階級社会に必要な本当の意味での論理かもしれない、と私は衝撃的に受けとめた。
ホリエモンや村上ファンドが市場原理主義をかざしてどんなに稼いでも、彼らは日本という中産階級社会に支えられている。競争原理でわずかな「勝ち組」だけが肥え太って中産階級がワーキングプアに落ちぶれたら、市場原理主義そのものが成り立たなくなってしまう。今はまだそこまで行き着いていないだけのことだ。同じように年功序列も日本的なよさで必要かもしれないが、年齢で一律に格差をつけるやり方も不公平は否めない。
以上のように過去の護送船団方式にも批判されるような過保護の面があった。そこは潔く認め家庭の事情は個人の手に委ねるように改めないといけないが、他方、現状のままの市場原理主義にグローバル化が結びついたら、株式相場の世界同時安のように世界同時格差社会が定着し、すべてがデッドロックに乗り上げてしまう。遠い先を見越してそうなるのを防ぐためにも中産階級社会を維持する新しい規範が必要なのである。そのためには護送船団方式もただ守るだけでなく時代の要請に合ったかたちに改めないといけない。あるいは資本主義でいくなら市場原理主義ではなく日本人の美学ともいうべき義理、人情、恩返しを体系化したGNO資本主義、GNOデモクラシー、すなわち新しい護送船団方式に改めないといけないということである。