ヨコハマ ストーリー 第31回 「山手本通り物語」
魅力あふれる街、ヨコハマ。
この街が、世界の表舞台に登場したのは、今からおよそ150年前。ペリー艦隊が来航したときから、その歩みは始まりました。そして今もヨコハマは、ユニークな街であり続けています。そんなヨコハマの由緒あるスポットを舞台に、物語と音楽で紡いでいく『ヨコハマ・ストーリー』。今日は「私の山手本通り物語」
外国人の居留地だったこともあり、教会やミッションスクールが多い横浜、山手本通りは古い洋館が特徴的だ。緑に囲まれた西洋建築の粋は、貴重な文化財であり、市民や観光客をいざなう憩いの場所にもなっている。
「歴史を生かしたまちづくり」を掲げた横浜市は、関東大震災から昭和初期にかけて建てられた外国人の住居を修復し、移築した。
山手本通りには、七つの洋館が整備され、一般公開されている。品格のある家具や調度がイギリスの伝統を伝える『横浜市イギリス館』、吹き抜けのホールが心を開放してくれる『山手111番館』、元町公園の自然が一望できる広い窓が嬉しい『エリスマン館』、白地に緑の窓枠が映える外観とサンルームが有名な『ブラフ18番館』など、それぞれに特徴を持つ洋館は、時代や国境を越えた趣きと文化の香りに満ちている。こうした洋館では、アマチュアやプロの演奏家によるコンサートが企画されている。異国情緒が漂う緑あふれる山手本通りで、クラシックを楽しむ贅沢は、市民のみならず訪れる人々の心に響いている。
山手本通りを歩くのは久しぶりだ。文化財としても貴重な洋館が立ち並ぶその通りは、緑の香りがする。今日は、友人に誘われてクラシックコンサートに出かけてきた。
その友人は、この通りの近くにあるインターナショナル・スクールに勤めている。イギリス人の彼は、コンサート活動に積極的で「通りだけでなく、この地域のために、文化的なことをやりたい」と常々言っていた。さまざまな国で教鞭をとってきた彼の経験と熱意は、人々を動かした。エリスマン邸や学校の講堂で、プロの演奏家と生徒たちによる演奏会を開催。生徒に、芸術を通した地域との交流活動を教えている。
クラシックコンサートがあるのは、エリスマン邸。現存する戦前の山手外国人住居の中では最大規模を誇る建物だ。まだ時間があったので、邸内の喫茶室に入った。大きな窓の向こうには元町公園。色づき始めた木々の葉と、深い緑のコントラストに目を奪われる。私の姿を見つけて、その友人が近づいてきた。
「今日の演目のバッハは、9歳で母親を、翌年には父親も亡くしました。わずか十歳で孤児となったバッハの少年時代は、決して幸せなものではありませんでした」と彼は、教師の顔になって話し始めた。「でも彼は、運命にめげず、音楽に対する愛情で自分を支えていきました。月の明かりで楽譜を写し、町に流れる教会の音楽で自分の耳を鍛えました」。「この街にいつも音楽があふれているように頑張ります」と彼は言い残して席を立った。
演奏会を前に、私の心にはもう音楽が鳴り響いていた。それは人を和ませて優しい気持ちにさせる至福の魔法だった。
今日の「私の山手本通り物語」はいかがでしたか?出演、小林節子脚本、北阪昌人がお送りいたしました。
「ヨコハマ・ストーリー」また来週をお楽しみに・・・