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2009年9月14日 (月)

横浜・明日への提言(81)バーチャルとリアル

81

横浜エフエム放送株式会社
代表取締役社長 藤木幸夫

(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長、株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)

 政権交代を実現させた総選挙の報道の過熱ぶりを私は冷めた目で眺めてきた。すべて前からわかっていたことじゃないかと。しかし、加熱するほどマスコミが選挙報道に夢中になるのにはわけがある。兎に角、予測調査はよく当たるらしい。外れるのは予測投票率くらいなもので、それも規則性のある誤差だから想定内である。偏差値など統計理論を少しでも理解していれば、調査をして現状を僅かな誤差で言い当てるのはさほどむずかしいことでないくらいのことはわかるから、選挙の予測調査をやること自体を問題にするつもりはない。私が問題視してやまないのはマスコミが予測調査のバーチャルな結果をリアルに演出したり記事として使うことの是非である。
 民主308、自民119という数字は、どこのテレビ局も、どの新聞社も、かなり早い段階に実施した調査で掴んでいたはずである。あたらずといえども遠からずで、麻生政権発足直後から議席数の予測はほとんど変化がなかった。結果は自明の理なのだからマスコミは冷静に論評するのが本当だろう。それなのに、キャスターも、コメンテーターも、バーチャルなデータのみに言及して、センセーショナルな取り上げ方を繰り返した。つまり、テレビ画面の裏側はバーチャルでしらじらしい演出世界でしかないのに、画面のこちら側の視聴者はリアルに受けとめてしまう。マスコミはそうした現象も織り込み済みのこととしているというのだから、これほど不条理なことはない。
 麻生政権発足後間もなく、自民党の大物議員が党独自の調査結果を提示して総選挙を先送りするいいわけにした。自民党にもわかっていたのだから、テレビのワイドショーなどに振りまわされることもないと思うのだが、そうはいかないところにテレビが持つ魔力みたいなものがあるのだろうか。
 地すべり的圧勝で政権交代を勝ち取った民主党も同じである。結果を欲しがるあまり油断を戒めるだけで、次のプログラムを確定して少しでも先へ進むことを怠った。
 こんなことを繰り返していたら、日本はどうなるのだろう。バーチャルな世界を演出しトリックスター化するマスコミ、バーチャルな世界をリアルと信じて憎しみや怒りを増幅して、結局、マスコミの誘導に乗せられて二者択一に走ってしまう視聴者、その悪しき循環が螺旋的に行き着く先は何か。賢明で健全なリーダー不在下のポピュリズム、中身が真空の高度情報化社会、即断定、即反応の二者択一知能など、どのようにも予測がつくわけであるが、私は政権交代などよりこうしたシチュエーションのほうをむしろ衝撃的に受けとめている。
 しからば、どうすればよいのか。論じるとすれば、自民党の再生などより情報を国民に提供する世の中の仕組みの検証と再構築ではないか。次回もこの問題を取り上げてみたい。