横浜・明日への提言(67) ピンチをチャンスに変えよう
代表取締役社長 藤木幸夫
(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)
読売新聞1月3日朝刊一面トップの見出しに「規制なき市場経済はない」の文字を見たとき、「ああ、規制強化が今年の新聞マスコミの論説の底流になっていくのだろうな」と私は直感した。
あえて新聞マスコミを取り上げるのは「世の中への主張の乗り換え名人」として変化の方向性をいつも先取りしているからである。つい、この間まで新聞マスコミの論調は「規制緩和礼賛」だった。小さな政府、民営化、競争原理を政策の根幹に持ち込んだレーガン、サッチャー、小泉純一郎をヒーロー扱いし、結果については言及を避けてきた節がないではない。しかし、遂に結果は出た。一億総中産階級社会だった日本が急転直下極端なかたちで勝ち組、負け組に二大別され、その直後に地殻変動がきた。すなわち、わずかに生き残った勝ち組までもが軒並みポシャって、そして誰もいなくなった観の惨憺たる日本経済。一国の総理が「百年に一度の」と形容するほどの経済危機を目の当たりにして、新聞マスコミは翻然と論調の転換を試みたわけである。皮肉で言うのではなく、それが新聞マスコミの論調の習性なのである。過ちを改めるのに速やかなこと、世の人はもって手本とすべきだろう。
さて、現下の喫緊の課題は雇用問題だ。新聞マスコミが言い出す前に世の中が教えてくれたのが、近代民主主義社会にあっては雇用こそ経済活動の基本だということだ。ロビンソン・クルーソーではないが、人間一人が生きていくことがすなわち経済活動である。細胞ともいうべき最小単位の一人の暮らしが足りて、はじめて趣味、娯楽、芸術、文化への精神的欲求が熟成し、それらで組み上がって社会的・組織的活動が活性化する。百年に一度の経済危機の引き金となったサブプライムローン問題は返済能力のない個人を借金漬けにしてまで儲けようとした利益至上主義のババ抜きマネー・ゲームの破綻なのであり、そうした無謀まで許したレーガン、サッチャー、小泉純一郎ら一連の画一的市場原理政策が必然的に行き着くところでもあった。
百年に一度の激震の震源地がわかったのである。改革の痛みに耐えた結果、さらなるとてつもない痛みを思い知らされるというかたちで。これで誰もが目を覚ましただろうと思いたいのだが、まだ改革幻想に取り付かれている向きもいるようだ。しかし、日本国民の大半は、最早、改革幻想から覚めたはずである。何事も覚醒なくして進歩はあり得ないのだから、これが今年一番の明るい話題と思いたいものである。
覚醒したとして、どうしたら暮らしがよくなるのか。地域がよくなるのか。国がよくなるのか。今となっては家庭で、会社で、地域で、各人が潜在能力を発揮するほかない。どういうかたちでポテンシャルを発揮すればよいのかといえば、もちろん、競争というかたちではない。対決や競争ではなく相談、共同、協力というかたちで日本人の底力がいたる場面で発揮されたら、今日のピンチは明日の大きなチャンスに変わるはずである。