横浜・明日への提言(65)実体のある経済に回帰せよ
代表取締役社長 藤木幸夫
(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)
明けましておめでとうございます。
年頭に当たって思うことは目標をどこに置くかということで、それが一年を通じて希望にもなり、励みにもなる。そこで思うのは昨年の後半あたりから盛んに「実体経済」という言葉がいわれるようになったことである。こういうときの「実体」は「じったい」と読み、機械、エネルギー、建設、食品など人間の社会生活に必要なものを製造生産する事業をいい、株券、証券化商品など信用という目に見えないものを取引して利潤を追求する金融業を念頭に置いて生まれた言葉だ。しかし、私がいう「実体」は昔から「じってい」と読み、真面目、ひたむきというような意味である。実体経済の実体にコンプライアンスが加わったようなものと理解して貰えばよい。
正月早々、なぜ、このような言葉を持ち出したのかというと、業界人に実体経済の「実体」を履き違えて貰っては困るからである。実体を「じったい」と読むときには経済のありようが曖昧である。ところが、「じってい」と読むと経済はかくあるべしという語義が実に明瞭になる。
昨年を振り返ってみれば、たった一年間で世界の趨勢が規制緩和から規制強化へ、競争原理一辺倒から護送船団方式らしき模索の動きへ、目指す方向が一変してしまうところまでいくとは予想もしなかった。
行きすぎた規制緩和がもたらしたのは勝ち組と負け組の二極化、すなわち一億総中流階級の喪失、それに競争原理の導入が追い討ちをかけて人心の荒廃と社会の殺伐化現象を顕著なものにした。そこへ持ってきて、世界的な金融危機である。これから、どうなっていくか、目下はまだ前兆の段階でわからないわけだが、昨年11月にワシントンで金融サミットが開催され、先進国に新興国を加えた20の国と地域の首脳が「規制緩和、待った」「競争原理、ノー」のシグナルを発した意義は大きい。
投機ファンドの暗躍で現実の需要と関係なしに原油相場が一気に天井に上り詰め、かと思えばたちまち奈落に向かって下落し、実体経済に深刻な打撃を与えてしまう。投資者の欲のからんだ気分次第で相場が乱高下し価値が一定しない株券、証券会社が破綻すれば紙切れ同然になってしまう証券化商品を資産に組み込む会計制度を採用したため、負の連鎖といわれる株式の世界同時安、金融証券化商品の大幅な額面割れなどで企業会計が真っ赤っかな赤字に転落してしまう。金融は実体経済を活性化させる縁の下の力持ちに徹してこそ実業たり得る。実体経済とは相容れない価値観でマネーゲームを繰り返してきた「金融バブル」がはじけたからには、金融も原点を目指して回帰するほかない。金融に対する規制強化の趨勢は必然の帰結で、むしろ、遅きに失した観がある。
過去を思えばいまいましく腹立たしいことばかりで気持ちが暗くなりもしようが、そうした思いでいるのはあなただけではない。せめても、明るい光が射してくる方角に目を向けよう。金融バブルが弾けた今、目指すのは実体(じってい)経済への回帰しかないと信じよう。