横浜・明日への提言(39) みんなで喜ぶ感激を再び
代表取締役社長 藤木幸夫
(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)
この頃、足りてる怖さというようなことを考える。世の中には「着物一枚茶碗一つ」という言葉がある。衣食が足りればあとは余分、物欲は求めず心を満たす生き方をしよう、というようなことだと思う。衣食の足りない暮らしを知るから、そういう境地を願うのだろう。
戦前に生まれた私は国の敗戦を体験し、何もかも失い、あるのは被占領国の屈辱だけ、という暮らしで戦後を迎えた。しかし、文化はあるという気概で、日本は「文化国家」を唱えた。着物一枚茶碗一つの暮らしは夢のまた夢、手の届かないところで輝いていた。
ところが、トランジスタ・ラジオの開発による経済的な成功が活力を生み、気がついたら日本は経済大国をめざしていた。新幹線構想、高速道路の建設ラッシュ、そうした高度成長の過程で、私たちは電気洗濯機、電気冷蔵庫、テレビを持つ喜びにしびれた。
「俺たちが働けば働くほど国がよくなるよ。おい、俺のうちには、今日、テレビが入るよ」
一生懸命に働いて仕事が終わると飛んで家に帰った。
「今度は、電気冷蔵庫が入る」
そうすると職場から何回も我が家に電話を入れる。
「電気屋さん来たか。そうか、来たか」
また我が家に飛んで帰る。
物欲だけでなく、家に物が揃うのを家族で一緒に喜ぶ楽しみが伴っていた。今の人には味わえない喜びだ。世の中全体が、きらきら、きらきら輝いていた。
それを思うにつけ、今の世の中はどうだ。グローバル経済とかいわれて、ごく限られた大企業の世界進出、世界戦略にばかりマスコミのスポットライトが当てられて、自分の目に見えるのは正反対のワーキングプアとなった若者たちの姿。「世の中、どうなっちゃったの」では働く喜びが湧かない。みんなで描く夢がない。
確かに物が欲しければカードで買える。ただし、それは借金だ。欲しい物は手に入れたが、待つのはローンの返済地獄。物を得ても喜びが持続しない。家族と喜びを分かち合うシーンが見られない。
この違いは何だろうか。
横浜から答えを提示できたら画期的だと思う。
私はみんなで描く夢、その実現に取り組む感激が各人にあるなしだと思う。そういう意味で再来年に迫った開港150周年記念イベントは大事だ。360万市民がみんなで描く夢、どうしたら横浜が一つになって開港150周年を祝い、感激に浸れるのか。
私もかかわっている横浜開港150周年協会を中心に、みんなの智恵と力で記念イベントを創りあげ、30年前のような感動と感激を市民全体で分かち合いたいと願っている。