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2006年8月11日 (金)

ヨコハマ ストーリー  第20回 「私の写真館物語」

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ヨコハマストーリーは、FMヨコハマで2005.4.5~2006.3.26(毎週日曜日 出演:小林節子)に放送された番組の脚本の抄録です。

魅力あふれる街、ヨコハマ。
この街が、世界の表舞台に登場したのは、今からおよそ150年前。ペリー艦隊が来航したときから、その歩みは始まりました。そして今もヨコハマは、ユニークな街であり続けています。そんなヨコハマの由緒あるスポットを舞台に、物語と音楽で紡いでいく『ヨコハマ・ストーリー』。今日は「私の写真館物語」

1861年、横浜市中区野毛町に、日本で最初の写真館ができた。『全楽堂』という小さな写真館を開業したのは下岡蓮杖だった。彼は、下田から画家を目指して上京したが、当銀板写真に出会って衝撃を受けた。その迫力に圧倒された蓮杖は、写真技術を取得するため、奮闘する。浦賀奉行所、アメリカ領事館、さまざまな場所を渡り歩き、辿り着いたのが横浜。イギリス人の職業写真家、ジョン・ウイルソンに写真機材を譲り受け技術を会得、ついに念願の写真館開業にこぎつけた。写真技師を志して、実に18年の年月が流れていた。

 昔は、住んでいる街に必ずひとつは、小さな写真館があったような気がする。私が幼いころ住んでいた野毛の町にも写真館があった。店の前に飾られたいくつかの写真。七五三、入学式、結婚式。人生のお祝い事には、みんな写真館にいって嬉しい時間を封印した。
 ある日、父に手をひかれて写真館に行った。父は「遠くに住んでいるおじいさんに、写真をおくってあげよう」と話しながら私の頭をなでた。店に入ると白髪頭のおじさんが、じろっと私を見た。不思議な色をした壁の前に立派な椅子があった。おじさんは、その椅子に座わるように言った。父が見守る中、私は写真に撮られた。笑ってといわれても、どんなふうに笑えばいいのかわからなかった。そのときの写真が、まさか写真館の表に飾られることになるとは思いもしなかった。
 町の小さな写真館に飾られた私の写真。はにかんだように、ぎこちなく微笑んだ顔。店が通学路にあったので、写真はクラス中の知るところとり、私はクラスの男の子からずいぶんひやかされた。私は写真嫌いになった。店の前をさけ学校へも遠回りしていくようになった。母に、あの写真をはずすように言ってと頼んだ。でも私の写真は飾られたままだった。写真のことをみんなが何も言わなくなる頃、気がつくと店のウインドウからはずされていた。
 先日、久しぶりに実家に帰った。母が面白いものが出てきたわよと言った。見ると、写真館に飾られていたあの写真だ。きちんと額におさまっている。
「お父さんはね、この写真が、とっても気に入っていたのよ。写真屋さんがね、表からこの写真をはずそうとするのを何度もとめたくらい」と母は言った。困ったような笑顔の私。そのセピア色の幼い自分を見ながら、当時のことが次々と思い出された。写真館のかびくさいような匂い。フカフカとした椅子の感触。そして、父の大きな手のぬくもり。「これ、もらってもいい?」と私は母に笑顔で言った。

 今日の「私の写真館物語」いかがでしたか?出演、小林 節子 脚本、北阪昌人でお送りいたしました。「ヨコハマ・ストーリー」また来週をお楽しみに・・・

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