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2008年8月

2008年8月31日 (日)

横浜・明日への提言(57)職人さんの精神文化を再生させよう

57

横浜エフエム放送株式会社
代表取締役社長 藤木幸夫

(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長兼社長、 株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)

 今、横浜は開港150周年を目前にしている。では、150年前の日本はどうだったかというと、明治維新で、尊皇攘夷で、ああだったこうだったと物語がたくさんある。文化を切り口にしていうと、物をつくる職人文化が頂点に達して、とうとう精神文化まで生み出した。
 生活に直結して必要とされるものはすべて職人さんがつくった。
「人が見てもわからないようなそんな細かいところまで細工するなよ。だれも見やしねえよ、そんなとこ」
「テヤンデエ、だれも見ねえからちゃんとやってるんだ」
 これが職人さんの精神文化の一例、表面の見映えだけでなく内側のつくりが堅牢だから、長持ちするだけでなく、使い込むにつれて味が出てきた。使う人は愛着を持つし、物を大切にした。当然、物をつくる人が非常に尊敬された。
 して貰いたかったら先にしろ、という言葉がある。これは江戸の職人さんがいい出した言葉だ。ここから義理人情が生まれ、感謝の気持ちと恩返しにつながっていった。私が口癖のようにいうGNO(義理・人情・恩返し)が当たり前のように世間で行われていた。GNOが物づくりと表裏一体になっていたのが素晴らしいところだ。すなわち、偽装も手抜きも恥としてタブー視されていたから、コンプライアンスなどと声高にいう必要がなかった。
 ところが、明治維新になって、工業化を進めないと先進国の仲間入りできないというので、職人さんの技術と精神文化が軽視されるようになってしまった。外国は資本主義だが、日本にはかけらもない。工業化のために必要なのは港湾であり、船舶であり、鉄道であり、道路であり、鉄鋼であり、エネルギーである。外国に負けないだけのそれらの産業基盤を持つ新しい日本をつくる出発点になったことから、明治維新は今日においても賞賛されるのだが、ちょっと待てといいたい。明治維新は賞賛に値する、ただし、手放しじゃないよ。大局的見地からすると失ったもの、壊したもの、差し引きどうなんだろうか。残念ながら、一部の人しかそこまで踏み込んで明治維新を物語る人がいない。それはそれでいい。しかし、職人さんの技術と精神文化を捨て去ったツケだけは、これからの日本のために注意を喚起したい。
 特に最近の日本はGDPが世界第何位だの、近代化だの、構造改革だの、入れ物ばかり立派に見せかけようとして中身がぼろぼろになってしまった。格差社会の是正も、ワーキングプアの問題も、ありとあらゆる不都合も、職人さんの精神文化を蘇らせ、国民的行動規範とすれば解決がつく。
 ひとつ、研究することから始めてはどうか。