アジアン・ロック通信<38>
2011年は多くの衝撃的な事柄が起こったが、音楽関連でも、ゲイリー・ムーア、スティーヴ・ハリス(SHY)、ジェイニー・レイン(WARRANT)、スコット・コロンバス(MANOWAR)、セス・パットナム(AxCx)、TAIJI、ジョー山中、柳ジョージ等、ざっと思いつくだけでも、これだけの偉大なミュージシャンが逝去された。
早かれ遅かれ我々の肉体は滅びる。けれども彼らの残した作品や精神は引き継がれることだろうし、逝く人があれば、また新たな才能を持った者もやってくるものだ。
中国は北京の、モンゴルに代表される遊牧民文化を取り入れたNature率いるワンマン・ペイガン・フォーク・メタル、TENGGER CAVALRYのデビュー・アルバム『Blood Sacrifice Shaman』(2010年発表)をアジアンロック通信第31回でご紹介させて頂いたが、2011年末、わずか一年というインターバルでセカンド・アルバム『Cavalry Folk』を届けてきた。
『Blood Sacrifice Shaman』の時は少々楽曲も荒削りで、音質も特に良いと言える程ではなかった為、個性や楽曲的魅力は十二分であっても、どうしてもアングラ臭が付きまとってしまっていたのは否めなかった。しかし、今作『Cavalry Folk』では、ミキシングとマスタリングにかなりの時間をかけ、培った理論と技術を注ぎ込んだと言うだけあって音質は飛躍的に向上している。さらに、楽曲自体もきちんと整理されてきていることを踏まえると、もう世界の第一線で勝負できるところまで到達していると思う。
内容の方はといえば、こちらもかなりの力が入れられていて、”The Mantra”と”Sunesu Cavalry”という二枚のディスクから『Cavalry Folk』という作品は成り立っている。”The Mantra”ではモンゴルの伝統楽器を使用してメディーヴァル、ブッディズム、シャーマン、イスラムといったワールド・ミュージックと言えるような作品が収められたフォーキーな一枚で、白い馬が駆ける様子やエキゾチックな砂漠、広大な風になびく草原の様子が次々に展開する。一方、”Sunesu Cavalry”はバリバリのペイガン・フォーク・メタルとなっており、デス/ブラック・メタル的なギター・リフと大地を響かせ駆けるリズム、そこに弾ける口琴、かき鳴らされるトプシュール、馬頭琴、草原を超え、砂漠に響き渡る重低音のホーミーが渾然一体となって勇壮に奏でられている。
なお、 Sunesu Cavalryとは、世界征服を目指し、志半ばで死去した英雄が亡魂となっても地獄で騎兵隊を集めてまで目標を遂げようと戦い続けている姿を意味しているようで、Nature曰く、「この世に不死の者など存在しないけれども、その精神は生き続けるということを表現したかった」ということだ。
今回は、ボーナス・トラックの1つとしてARCH ENEMYの‘Nemesis’をカヴァーしているが、馬頭琴やホーミーを取り入れたTENGGER CAVALRYならではのスタイルを貫いていて聴手を楽しませてくれる。そして、ARCH ENEMYからの影響も隠さないNatureだが、ARCH ENEMYはもとより、欧州のペイガン・メタル群と比べても、このバンド独自のスタイルを確立しているのには恐れ入る。アジア圏での遊牧民ペイガン・フォーク・メタルのパイオニアと言っても良いだろう。
何度も言うように、遊牧民文化に傾倒し、追究しているNatureだが、最近では日本の伝統音楽にも興味を持っているらしい。さらに現在、TENGGER CAVALRYには全てを取り仕切るNatureの他、馬頭琴演奏者、ドラマー、そしてベーシストが加入したようで、今作『Cavalry Folk』をステップとして次作でさらに大きな飛躍を見せてくれるはずだ。
昨年は、台湾のCHTHONICが『高砂軍』という傑作を作り出してくれたが、我々はTENGGER CAVALRYにも目を向ける必要がある。今まさにアジアのシーンは動いている。この動きをリアル・タイムで見届けなければならない。
<小笠原和生>
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