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2009年12月

2009年12月15日 (火)

横浜・明日への提言(87)長いスパン、自在のペース 

87

横浜エフエム放送株式会社
代表取締役社長 藤木幸夫

(著者紹介:現在、藤木企業株式会社 取締役会長、株式会社横浜スタジアム取締役会長、横浜港運協会会長、神奈川県銃器薬物水際排除推進協議会会長、神奈川県野球協議会会長、社会福祉法人希望更生会理事長、小さな親切運動神奈川県本部代表、がん医療と患者・家族を支援する会会長等の役職にあり、平成元年4月に藍綬褒章受章、平成10年11月に横浜文化賞を受賞。)

 民主党政権が行う事業仕分けで、次世代スーパーコンピューターの開発予算をはじめ科学技術関係の予算の廃止や削減が問題になった。行政刷新会議のパフォーマンスは国民受けして好評のようだが、問題は仕分け人の識見である。科学技術や芸術の分野は努力に応じて結果が約束されるとはかぎらないから「効率」や「費用対効果」といった物差しの判断にはなじまない。「アメリカから買ったらどうか」という提案に、アメリカは最先端のものは売らないから二番手のレベルに甘んじることになると行政側が説明すると、「世界で二番ではいけないのか」という質問が返った。買う、二番目ではいけないのか、と平気でいう仕分け人のセンスにまず驚く。
 オリンピックのメダル数は強化予算に比例するとIOCの関係者から聞いたことがある。科学技術の進歩も同じらしい。しかし、逆は必ずしも真ならずで、どれだけの予算を使ったらメダルをいくつ取れるかを事前にきちんと説明しろと迫られても答えようがないはずだ。ただし、経験則から判断はつく。国体の開催県がどういうわけか天皇杯、皇后杯を獲得するのが通例のようになったのは、一番になる意気込みで強化に取り組み、予算に糸目をつけないためだろう。だから、科学技術予算の費用対効果を説明できないこと自体に問題があるというより、経験則から洞察することのできない仕分け人のセンスに課題がある。
 日本はものづくりで立国してきたはずだが、ここへきて地盤沈下が際立つのは、株主の顔色をうかがって長いスパンの開発予算が取れなくなったことと自在な取り組みに制約が多く設けられたことに最大の原因があるそうだ。経営トップが株主のほうにばかり目を向けている企業ほど開発面の退潮が目立つという。実に嘆かわしいことだが、打開策としてはその逆をやることをお勧めしたい。
 かつての日本の底力は経営トップが会社は社員と家族のためにあるとしっかり認識していた。そこに利害打算を超越した心の紐帯が生まれ、よそがやれないような開発をやってみせようという旺盛な意欲につながったわけである。二番でいいなどという発想はどこにもなかった。たまたま結果として二番に甘んじても、今に見ておれと決して諦めるようなことはなかった。
 ところが、某全国紙の投書欄で次のような意見を見た。
「どんな研究であっても税金を使う研究であれば、その必要性や意義に
ついて納税者に説明する義務がある」
 税金という金を基準にした新手の主張で、もっと株主を納得させるような経営をしろというのと同根の発想である。こんな声援にくれぐれも行政刷新会議が踊らされぬよう切に祈るものである。