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2006年5月 4日 (木)

ヨコハマ ストーリー  第6回 「グランドホテル」

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ヨコハマストーリーは、FMヨコハマで2005.4.5~2006.3.26(毎週日曜日 出演:小林節子)に放送された番組の脚本抄録です。

魅力あふれる街、ヨコハマ。この街が、世界の表舞台に登場したのは、今からおよそ150年前。ペリー艦隊が来航したそのときから、歩みは始まりました。
そして今もヨコハマは、ユニークな街であり続けています。
そんなヨコハマの由緒あるスポットを舞台に、物語と音楽で紡いでいく『ヨコハマ・ストーリー』今日は「グランドホテル物語」

 横浜開港後、外国人用ホテルの需要が急増した。そして、現在の「横浜人形の家」付近に、本格的なホテル「グランドホテル」が建てられた。残念ながら、このホテルは関東大震災で焼失した。震災後、ホテルの復興はなかなかすすまなかった。しかし、需要の高さに迫られた横浜市は、市がホテルを建設し運営を民間の会社にゆだねるという画期的方策を打ち出した。そして昭和2年、新しいホテルが誕生。名前は横浜市民から募集し『ホテルニューグランド』と決まった。
 このホテルにはチャップリンや、ベーブ・ルースが泊まり、第二次大戦直後は連合国軍最高指令官、マッカーサーが執務室として利用した。現在のホテルニューグランド旧館は建設当時の面影を残している。階段をのぼったロビーは洋風と和風を巧みに調和させ、格調の高い雰囲気をかもしだしている。

 結婚40年のお祝いで『ホテルニューグランド』に夫と泊まることにした。本館二階のロビーは太い柱とレリーフをほどこした壁、年代を感じさせる調度品やソファで重厚な空気につつまれている。その雰囲気は昨日今日つくられたものではなかった。
 普段ほとんど口をきかない夫が珍しく「たまには、ホテルに泊まるか」と声をかけてきた。「結婚式をあげたニューグランドにしようと思う」と言った顔が印象的だった。照れたような怒ったような表情。あとで、娘がこっそり話してくれた。これは娘のアイデアだった。頑固な夫がこのアイデアに素直にしたがってくれたことが微笑ましかった。
 山下公園を夫と散歩した。並んで歩くのはずいぶん久しぶりだと思う。先月の入院は二週間に及んだ。定期的な検査入院だったがかなりこたえた。夫は、毎日病院にきてくれた。
 歩く私たちの影は心細く揺れている。影も歳をとるのかしら、とふと思った。風に潮の匂いが交じっている。氷川丸の船体が水面に映った陽光をはねかえしている。「風が出てきたな。ホテルに戻ろう」と夫が言った。
 レストランの席は窓側だった。こうして、あらためて二人の時間をながめると、私たちの関係も、このホテルのように昨日今日つくられたものではないことがわかる。気がつくと、ウエイターが、大きな花束をテーブルに置いた。夫はそっけなく「これは、俺が頼んだんだ」と言った。その言い方がおかしかった。窓の外では暗くなった街路樹に、柔らかな灯りがともった。

 今日の「グランドホテル物語」いかがでしたか。出演、小林 節子 脚本、北阪真人でお送りしました。また来週をお楽しみに・・・

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