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2006年3月28日 (火)

ヨコハマ ストーリー 第1回 私の大桟橋物語

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ヨコハマ ストーリーは、FMヨコハマで2005.4.5~2006.3.26(毎週日曜日6:45~出演:小林節子 )に放送された番組の脚本再録です。

魅力あふれる街、ヨコハマ。
日本そして世界の表舞台に登場したのは今からおよそ150年前。
ペリー艦隊が来航したこの時からその歩みは始まりました。
そして今もヨコハマはユニークな街であり続けています。

そんなヨコハマの由緒あるスポットを舞台に、物語と音楽で紡いでいく「ヨコハマ・ストーリー」
第1回目の今日は、「私の大桟橋物語」

安政6年、1859年、現在の横浜港大桟橋のある海岸に二本の波止場が完成した。突貫工事で造られたこの150年前の波止場こそが現在の日本を代表する大桟橋へと発展していく第一歩だった。
それから50年後の明治43年、1910年、横浜と関わりの深かった明治の文豪、森鴎外は三田文学に「桟橋」という短い文章を載せている。

桟橋が長い長い。四筋の軌道が縦に斜に切っている鉄橋の梁「はり」に、長い桁と短い桁とが子供のおもちゃにする木琴のようにわたしてある。靴の踵や下駄の歯をかみそうな桁の隙間から、所々に白く日の光を反射している黒い波が見える。空は真っ青に晴れている。

これは100年前の大桟橋。どこかのどかな風景の描写であるが、埠頭が出来、横浜が世界への玄関口として国際舞台へ登場していくことを決定づけたまさに横浜の夜明けといってもいいようだ。
以来、何回もの改築、改修、拡張を経て平成14年、2002年には客船クルーズ時代にふさわしい、国際客船ターミナルを持つ 現在の横浜港大桟橋となっている。   

私が帰宅して部屋に入ると「ママ宅急便が届いてるわ。」と二階から娘の声がした。テーブルの上には荷物が置いてある。送り主を見ると友人の信子からのものだ。早速開くと手紙と共にさわやかな桜色のパッケージが現れた。
華やかな包装からお菓子だなとすぐ感じた。どんなお菓子かしらと中味もとても興味があったが、まず手紙を読むことにした。
その手紙には、昨年私の親族に不幸があって何かと多忙と推察したことや新年の挨拶も失礼したこと。おまけに寒中お見舞いも出し損ねてしまったが元気を出してと励ましの言葉が書かれていた。
お菓子は春らしいからと、またよく味わえば昔の事もいろいろ想い出すからと意味不明のことも書かれていた。
しかし信子の優しさが、最近ふさぎ込んでいた私の心にしっかりと届いた。そしてきれいな桜色の包装紙の贈り物は、間違いなく私の家にも遅い春が来たような気分にさせた。パッケージを開いてみると、山下町のレストランの洋菓子だとわかった。いつも行動に一工夫とアイデアのあるセンスのいい信子のこと、きっと何かあるんだわと感じつつ、ようやく春を意識出来る余裕が私にも生まれたのかしらと思っていたら二階から大きな声で「ママ、中は何なの」「お菓子よ。今お茶を入れるから」と答えた。

「お茶が入ったわよ」娘は猫と一緒に二階から下りてきて、じっと見つめてから「まあ美味しそう、二つもらっていい」と言うとお茶を持って自分の部屋に戻っていった。手を休める事が出来ない何かをしているみたいだ。猫はお菓子の匂いを少し気にしただけで自分のものではなさそうだと興味を示さずソファーに飛び乗って片隅の定位置で丸くなった。お菓子はゼリーの洋菓子だ。レストランのお菓子ということを想い出し説明書きを読むと、そのレストランは、昔私達がいったことがあるお店と同じ名前だった。しかも山下町。
信子と私と男友達二人。四人で横浜港にクイーン・エリザベスⅡが入っているというので見に行ったことがあった。
1975年、クイーン・エリザベスⅡが初めて日本に来た時に、私達は横浜に行き、あの素晴らしく大きな船を見てみんなで感動した。大桟橋で船をバックに何枚も写真を撮った。今でもその時の写真は持っている。そしてその帰りに立ち寄ったのがその名前のレストランだったのだ。そう、大桟橋通りを真っ直ぐに戻って大きな道を超えてすぐのところ。お腹の空いていた私達は、お酒を飲んで食事をし、色々なことをよくおしゃべりして最後にお茶を飲んだ。季節は春だったが、若かった私達の心は夏真っ盛りだった。
そのレストランは今もあるんだ。大桟橋とクイーン・エリザベスⅡとレストラン。大げさに言ってしまえば人生でたったの一日。信子は、たまたまその船を一緒に見に行った二人の男友達の一人、徹と結婚し一男一女に恵まれ幸せに人生を送っている。私とは今でも親友だ。そして今日「桜ゼリー」という洋菓子と共に冬だった私の心に明るい春を届けてくれた。身体も不思議に軽くなったみたいだ。五月には、大桟橋にクルーズの豪華客船も入ってくる。港まつりのパレードもある。信子を誘ってあのレストランにも行ってみよう。
私は立ち上がりカレンダーを確認し、信子に伝えようと電話のある方に向かった。ソファーの猫も目を大きくして私の変化を気にしていた。

ヨコハマの魅力と由緒あるスポットを舞台に、物語と音楽で紡いでいく「ヨコハマ・ストーリー」
今日の、「私の大桟橋物語」いかがでしたか。出演、小林節子、脚本浮田周男でお送りいたしました。

なお、横浜大桟橋へは、みなとみらい線「日本大通り駅」から歩いて五分です。春の一日、大桟橋の豪華客船をはじめ、山下町の街並みを楽しんでみてはいかがでしょう。「ヨコハマ・ストーリー」また来週をお楽しみに・・・

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