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2010年1月 5日 (火)

ミスター・ピップ

表紙 購入
ロイド・ジョーンズ 著 大友りお 訳
白水社
2,415円(税込み)
ISBN978-4-560-09004-6

独立抗争が続く南の島。薬も電気もなく学校も閉鎖された島のただひとりの白人ミスター・ワッツは、20人の子どもたちにディケンズの『大いなる遺産』を一日一章ずつ読み聞かせる。孤児のピップのストーリーは子どもたちの中に「知らないけれどとても近しい」世界を根付かせ、ピップは彼らの友達となるのだが…子どもたちのひとりだったマティルダが、悲しく大切な思い出を振り返るというかたちで綴られた小説。物語の力を信じている方に是非読んでいただきたい一冊です。

コメント

北村さん、こんにちは。

12月の大和での講座で北村さんがご紹介して下さった数多の書籍の中からまず本書を選んでみました。元々読み進めるのがゆっくりペースなのですが、特に本書の場合は文章が美しかった故に丁寧に文字を追いかけたいなという想いもあり、読了までにかなりの時間を要してしまいました(汗)。

所謂「良い本」「面白い本」というのは世に無数に存在します。しかし魂が震えるような「生涯の一冊」にはそうそう巡り合えるものではありません。『ミスター・ピップ』は私にとってまさにそんな物語でした。ご紹介して下さり、本当にありがとうございました。

子供だったマティルダがワッツ先生の朗読によって初めて「物語」と出逢い、言葉を学び、人情の機微に触れ、物語と共に成長し、自分の外側の世界に自分たちと近い存在がある事を知ってゆく。おそらく「物語」によって一度でも自身が救われたことの覚えがある読者ならば、環境は違えどマティルダの辿ったその数年間に既視感を抱くことが出来たのではないでしょうか。私自身も幼かった頃に母や祖母に読み聞かせてもらった昔話や物語に感動した時の事、また大人になってから数々の名作と巡り合った時に感じた言葉に出来ない想いなどが蘇ってくるようでした。

後半の悲劇、皆で積み重ねていった「知の形」や深い絆が不条理な暴力で無残に壊されてゆく様には胸が締め付けられます。しかし「私たちの心と想像力は誰にも奪うことはできない」という前半箇所でのワッツの言葉を不変の真理として受け止めていたであろうマティルダが、傷つきながらも前を向いて進んでゆくその姿に、物語が持つ力強さを改めて感じることも出来ました。

物語の「回収」をしてゆくシーン、そして革命軍や村人たちの前で幾夜にも亘りワッツが物語を語るシーン・・・みな素晴らしかったです。特にP182『村全体が心を奪われて、この忘れられた島の小さな焚き火の周りに座っている。言葉に出来ないような出来事が起こっても、外の世界はこれっぽっちの憤りも感じてくれなかったこの場所で』。その神々しい、夜の帳が下りた後の情景を思い浮かべて鳥肌が立ちました。また、マティルダとお母さんの関係性や、明かされてゆくワッツの素性についても色々考えさせられました(長くなりそうなので割愛しますが)。

きっと今後何度も再読し、その度に新たな発見があるのでしょう。でもその前にまだ全く読んでいない『大いなる遺産』から手を付けなければ(笑)。『ミスター・ピップ』は既にニュージーランドで映画化されているようですが、日本では公開されてないようですね・・・。YOU TUBEで予告編だけ観ましたが、それだけで涙出そうになりました。あと、不勉強でこの物語を読むまで全然知らなかった90年代初頭のパプアニューギニアでの内戦についても史実を少し探ってみたいと思いました。
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北村さんが講座の中で「物語は人の命を救うのだ、ということを信じさせてくれる一冊」「小説によって垣根は越えられるんです」と仰っていた意味が、最後まで読み通すことでおぼろげながら分かったように思いました。そしてあの時に併せてお話し下さった、この本を通じて北村さんと当時の女性リスナーのMさんがなさってこられた交流の事にも想いを馳せてみたり。

ワッツの言葉で「偉大な作家の作品を読むとき、それは作家その人に出会うことなんです。」とありますが、それはこのMさん、そして《Books A to Z》を拠り所にしていた私も含む多くのリスナーと北村さんの間にも成り立っていた関係性そのものだった、とも思うのです。番組で紹介された本を実際に手に取り、読んで抱いた感想と北村さんが番組で語った想いが同じだったりするととても嬉しかったものでしたし、北村さんの声に癒しを頂いたり読書を通して豊かな時間をたくさん持てた私たちリスナーはその瞬間、瞬間でまさに「北村さんその人に出会っていた」のですね。

今年から新しい道に進まれるとの事で、今までのような形で北村さんの書評や紹介を目にしたり耳に出来たりの機会がなくなってしまうのはとても寂しいですが、これからのご活躍を願うと共に心よりのエールを贈らせて頂きたいと思います。そして今までの全ての時間に感謝申し上げます。ありがとうございました。またいつか何処かでお目に掛かれる日が訪れますように。
(2月の講座には一応申し込んでいます。参加出来たらとても幸いですが、競争率高いでしょうね・・・)

追記:

今後もこのHPが残る限り、読んだ本の感想はご迷惑でなければ勝手に書かせて頂きますね。ご返信はお気になさらず・・・です。

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